地図をつくらない
夜明け前がいちばん暗いというが
夜明けにたどりつけなかったひとの
背中をみているあなたに
語りかけることばをもたないぼくは
地図をつくらない
はじめに町の名前を決めた
誰かと住むにふさわしいひびきの
遠回りしてでも帰りたくなる
夕暮れ 駅前で揚がるコロッケのにおい
ピカピカの靴が汚れてなじむような
そんな
地図はつくらない
あなたと出会う前のほうが
あなたとすれ違っていた気がする
コンマ何秒の永遠を
やわらかく抱いていたかった
点を打ってみる
調子っぱずれな場所まで
無理やりつなげれば嘘も欺瞞も
星になるように
夜明け前がいちばん暗いというが
暗くなるまえに立ち去ってしまった
ぼくはこの町のことを
よく知らない